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2009年07月 アーカイブ

2009年07月01日

常に動いている状況の中で、生きたヴァリエーションを持った答を生み出し続ける関係

いろいろ。 (cricket's eye)


ソーシャルワークの専門性とは、「唯一の正しい答」を知っていたり、導きだしたりすることではなく、「多様性に満ちた答を生み出す関係」を構築することなのではないか。
教育や試験は、「正解」を出させようとする。しかしながら現場実践には試験のような「正解」はない。

**
そこには、「ただ一つの正解」が存在するのではなく、常に動いている状況の中で、生きたヴァリエーションを持った答を生み出し続ける関係が存在している。
どのような状況であっても次の答を見いだせること…そうした柔軟性が求められる。

**
実は、現場のワーカーたちが日々行っていることもこれに近いことだろう。(それに気づいているかどうかは別の問題だが)
残念なことに、今の福祉教育はこうしたことの重要性をきちんと位置づけられていない。

そして学生たちも「正しい答」があるものと思い込まされている。
どうしたら厳しい現場に立ち続けられるか、揺らぎや矛盾にさらされつつソーシャルワークを実践できるのか…こうしたことは現場を経験したものでなければ伝えられないのではないかと思う。

だが、現場の経験も「教育」の名の下に十分な評価を受けること無く画一化されていく。
実習教育に関する昨今の方針を見ていると特にそんな思いを強くする。

少額訴訟と和解

大阪簡易裁判所簡易裁判所活性化研究会編(2006)『大阪簡易裁判所少額訴訟集中係における少額組訟手続に関する実践的研究報告』判例タイムズ

少額訴訟の審理時間データが載っている。
1998年(平成10年)~2005年(平成17年)のデータでは以下の通り。
(N=2395)

30分以内 51.9%
1時間以内 20.3%
1時間30分以内 15.6%
2時間以内 8.6%
3時間以内 3.0%
3時間を超える 0.7%

「ところで、訴額の上限が拡張され、少額訴訟手続の間口が広がったことにともない、紛争内容が複雑困難化し、多種多様な争点が主張され、感情的対立が先鋭化している事案や、独自の見解に固執して譲らない当事者の事案が散見されるようになり、主張の整理や当事者の説得に以前にも増して時間を要し、それが、平成17年においては、平成15年、16年に比較して、1時間以上の審理時間を要した事件の割合が増加している原因と思われる。(P157)」

米国の少額訴訟には、少額の調停手続が隣接している場合があるが、日本の少額訴訟では裁判所内の司法委員が和解手続を担当していて、外の調停機関に出すということはない。
しかし、上記のように時間のかかる事案が増えている現状では、和解ないし調停手続との組み合わせを強化した方がよいようにおもえる。

ひとつには、和解を進める司法委員に対しても、調停技法トレーニングの機会をきちんと提供した方がよいのではないか。
また、1日にこだわらない調停との組み合わせを手続的に整備するべきではないか。
と考えるが、どうだろうか。

あと、気になっているのが・・
相手方に弁護士が受任するとほぼすべて通常訴訟に移行するという話(P30)。
少額の執行で、「差押債権がなかったり差押債権があってもごく僅かで功を奏していないものが72.7%に及んでいる。(P112)」という話。

過去のエントリー:少額訴訟の実態研究

2009年07月02日

イラストで見る世界の法廷

神谷説子、澤康臣(2009)『世界の裁判員―14か国イラスト法廷ガイド』(日本評論社)

著者の方から献本していただいた。

ジャーナリストが見た海外の裁判所の様子である。
神谷さんはジャパンタイムズ、澤さんは共同通信の記者。

イラストが豊富なのが売り。

2009年07月03日

大阪簡易裁判所の調停事件の書式

判例タイムズ社:判例タイムズ1130号(2003年11月30日号)

大阪地方裁判所簡易裁判所活性化民事委員会編(2003)『大阪簡易裁判所における民事調停事件の諸手続と書式モデル』判例タイムズ臨時増刊1130、2003年11月30日号

受付相談票(P76)や、(相手方への)照会書(P91)、調停制度の説明(P92)、調停条項案などもある。


2009年07月04日

家裁調停の黄昏

坂元和夫(2007)「家事調停の黄昏」(鴨川法律事務所事務所便りかもがわ)Vol.41、2007.8.1、3-4頁。 (PDF)
リンク元

調停委員が情報独占し、情報を小出しにすることで調停委員への依存を高めることで合意を調達する手法では、真の合意が実現できず、調停制度への不信を招くと批判している。

坂元弁護士は、元日弁連副会長。

Vol.42で同じ事務所のひょろり君(山崎浩一弁護士)が、夫婦を和解させている話もとてもおもしろい。

山崎浩一(2007)『頑張れ!ひょろり君―熱血弁護士奮闘中』現代人文社

2009年07月05日

お金になるコネをいかに作るか

公認会計士の資格のある中高時代の友人が独立したというので、一緒に昼食を食べた。

執行役員として参加する会社も準備中なので時間を充分に使えるわけでないのだが、会計事務所としても営業していかないとと言っていた。

うまくやっていそうに見える人も、それなりに転機が来るなぁという、ぼんやりとした感想を持つ。

有資格者の営業というのも、なかなか大変だ。

竜嵜喜助先生(弁護士)のエッセイを読んでいたら、アポなしで世間話をしにくる近所の人のことが書いてあった。
世間話というか、愚痴話というか、しかし、うっすらと無料法律相談を期待する近所の人の相手をしていても、なかなか商売につながらないだろう。
かといって、あっさり追い返すと、あの先生は高飛車だとかなんとか噂を立てられるのかもしれない。

日本人は無形の専門知識に金を払いたがらないという話があるが、わたしは、安易な一般化は好きではないので、その手のステレオタイプな説明にはくみしない。

が、竜嵜先生のおっしゃるような文脈の中で、良心的に仕事をしていくのは、やはりなかなかにたいへんな道だとおもう。

わたし自身、ひとのことを心配できる状況でもないのだけれど。

2009年07月06日

大阪の総合紛争解決センター

幅広い民事紛争の解決に尽力いたします | 一般社団法人 総合紛争解決センター
和解あっせん人・仲裁人候補者
費用について

大阪弁護士会らが設立を進めていた「総合紛争解決センター」のWebサイトが整ってきている。

料金は、弁護士会ADRに比べても安い水準に抑えているようだ。
申立時に10500円と成立手数料。
成立手数料は100万円未満で15750円。1000万円未満で52500円。

先日、JAA研究部会で話を聞いたのだが、3人の和解あっせん人で進められ、うち1人が弁護士になるそうだ。

ビジネスというよりは市民サービスと割り切って、団体乗り入れ型で進めていこうとしている姿そのものはとてもまっとうだ。

ただ、正直なところ、やってあげている的なサービスに陥ってしまうのか、市民的紛争解決機関として育っていくのかは、まだわからない。

過去のエントリー:大阪弁護士会の士業団体連携型ADR構想:総合紛争解決センター

2009年07月07日

弁護士ブログでの家事調停への疑問

弁護士のため息: 離婚のはなしーその1

家事調停委員の悪夢 PINE's page/ウェブリブログ

説得型の調停モデルでは、調停委員の価値観しだいでは、ハラスメントになりかねない。

(しかし、傾聴によって当事者の決定を促すモデルなら大丈夫という考え方には落とし穴がある。当事者に寄り添うといっても、調停人が無色透明になることなどないのだし、調停人自身を隠したままで合意を調達できるという考え方は、調停人自身の権力性を相対化する契機に欠けるという意味で危険だ。)


2009年07月08日

8月8日に、全青司主宰のメディエーション機関情報交換会

静岡の芝さんらが準備している、8月8日の全青司(全国青年司法書士協議会)主宰のメディエーション機関情報交換会には、私も出席する予定。

司法書士会関係以外の団体にも声をかけている。
そろそろ、単に勉強熱心という段階を超えて、市民運動として動き出す段階だと思う。認証を取って一安心みたいなことにならないように、現場の悩みを一緒に悩む活動が大事だとおもう。

対話のチカラ:必要なのはネットワーク!

コメント欄にもあった、メディエーションの運営に関わっているひと同士の話し合いが難しい・・というのは、まったく共感する。以前、ADRに関心がある人は気性が荒い、の法則 ということを考えたことがある。

しかし、本気で取り組もうと思っているなら、しかるべき連携に協調するということは必然だとおもうのだが。

2009年07月09日

石塚雅明氏のワークショップ覚え書き

私的ワークショップ覚え書き
石塚雅明氏

・「落としどころ」は「落とし穴」
・「口」より「耳」
・作業は単純に、成果は思わぬ発見があるものに
・こまった参加者?
・心地よくなければ参加する気になれない、心地よいだけでは参加している意義がない

2009年07月10日

調停技法勉強会・準備会

2009年8月10日(月) 17:00-20:00
場所 日弁連1703(仲裁人協会主催)
参加費 無料(ただし、9月以降の勉強会では1回あたり500円~1000円程度になる見込み)
内容 9月以降1ヶ月に1度のペースで行う勉強会の進め方を話し合う。現時点では『調停のプロセス』の輪読会と調停ロールプレイの組み合わせを想定。
想定している参加者は、何らかの調停トレーニング受講経験者。

正式な案内はまた追って。
ゼミみたいな感じで、和気藹々とやりたいなとおもいます。

2009年07月11日

仲裁・ADRフォーラム vol.2

日本仲裁人協会編(2009)『仲裁・ADRフォーラム vol.2』(オンブック)
amazon

「自主交渉援助型調停と法の接点」
というタイトルで、短い論文を書きました。

やっと出たようだ・・

2009年07月12日

仲裁ADR法学会大会@早稲田大学

出席してきた。

Folberg先生(サンフランシスコ大学、JAMS)の話。

・35年間教えてきた。
・35年前にはメディエーションと、メディテーション(瞑想)と違いをだれもわかっていなかった。
・以前は、弁護士は、メディエーションを拒否していたが、法文化が変化してきており、現在は、多くの法律家がメディエーションを歓迎している。
・メディエーションは当事者が自発的に選択する手続であることが重要。メディエーションは、競争市場になっている。メディエーションは、ADRのなかでもっとも歓迎されている。
・米国の経験を日本にするように助言するつもりはない。
・米国でメディエーションは、大陸の西と東でさかん。大陸の中央部は盛んでない。
・普通は、弁護士が代理人についている。
・調停人は弁護士が多い。
・JAMSで働いている。JAMSは、全米で23オフィス。240フルタイムメディエーターがいる。
・大きな収入を得られている状況である。
・バンカメとチェースマンハッタンのケースや、マイクロソフトとクラスアクションのケースも扱っている。
・評判や経験で選んでいる。弁護士が調停人の評判を見て選んでいるのでうまく機能している。深刻な問題はない。
・裁判所では、リストが必要になるので、大事になる。リストアップされる調停人については条件が問題になる。カリフォルニアの場合にも、メディーターになるには、弁護士である必要はない。
・サーティフィケーション(認証)とライセンス(資格)は違う。サーティフィケーションは、表示義務だけがある。
・カリフォルニア弁護士会のチェアーだった。サーティフィケーション(認証)を1年半検討したが、結局やめた。
・サーティフィケーション(認証)などの専門家の活動は、利用者や素人に対する共謀になりかねない。
・日本では、法律家が代理しない場合が多い。その意味で、認証のニーズが高いかもしれない。
・JAMSでは、350ドルから1000ドル以上のタイムチャージ。経験、認知度による。
・自分は、1時間 600ドル。1日6000ドルが標準。JAMSの中でまん中あたり。
・平均的には、8時間のフルデイ、2時間の準備くらいの長さ。
・早ければ、半日で終わるものもある。長いものは、2,3日かかるものもある。
・裁判所からの回付のものでは、25%を受け取る。
・自分もまったく無料のものもやったことがある

Boulle先生(オーストラリア)の話。
・20年以上調停にたずさわっている。その前は、法律家としての仕事。
・メディエータとして活動するのは、簡単なキャリアパスではない。学生にメディエータになりたいと言われると、メディエータ以外の経験が必要だと言っている。
・2008年度から国内調停者許可制度が稼働。促進型モデルによるもの。
・この許可制度では、祖父母規定(grandparenting provision)がある。継続研修は必要。
・2009年4月の実態調査では、規範を疑問視する結果。利用者の半分近くが不満足。利用者の7割が強制されていると感じた。評価型の実務になっている。

2009年07月13日

調停は、カオスの時代

この間の学会では、「ブログ見てますよ」と何人かの方から言われた。
ギョッとする。
しかも、微妙な言葉づかいをしているところを、正確に記憶されていたりすると、ますます。

そういうわけで、というわけでもないのですが、日本人の先生方の話については、今回は、やめておこうかなと思ったのだけれど、1点だけ書くとしよう。

山田文先生が、大正期以降を古典的な調停の時代、74年民調法改正以降を調停の法化の時代、90年代以降をカオスの時代と言っておられた。そして、ADR法制定・施行以降も、基本的にはカオスは続いているのではないかと。

カオスだから、わたしのような人間がいるのかなぁと、わが身を照らして考えていた。
Menkel-Meadowが、97年の論文で、「ADRのロマンチックな時代は終わった」と書いているのだが、日本のこのカオスな時代はロマンチックな時代と言えるのだろうか、とか。

2009年07月14日

ドイツの民間家事調停

ドイツの民間家事調停について、熊本大学の大橋眞弓教授が紹介をしている。

・ハイゼンベルク市1000人弱の弁護士のうち調停を実践しているのは10人程度 P184
・ドイツ全体で、10名程度の家庭裁判所裁判官が裁判所外で調停を実践 P184
・代表的な相談・調停機関-プロ・ファミリア P185
・プロ・ファミリアの設立は1952年。 P185
・1976年の法律(妊娠及び家庭扶助に関する法律) 妊娠中絶手術の事前相談義務づけ
 同法が西ドイツ全体で施行された。プロ・ファミリアが国家的な任務の主要部分を受け持つ。財政的な裏付けを得た。 P185
・2001年でドイツ全体で150カ所ほど。2005年で170カ所ほど。 P185
 バーデン・ヴェルテンベルク州内に18カ所。 P185
・バーデン・ヴェルテンベルク州コンスタンツ市(人口13万)のプロ・ファミリア訪問調査。 P186
・常勤5名、非常勤2名。非常勤の一人は弁護士。 P186
・2004年890件の相談。 P186
・2004年の州補助金は1820万円。これが全体の7割。その他、郡・市の補助金あり。 P186
・「学際的な判断がプロ・ファミリアの特色」 P186
・ある調停者養成コースでは、修了までに計204時間の受講が必要 P189

大橋眞弓「家庭紛争に関する裁判外紛争解決システム」吉田勇編(2006)『法化社会と紛争解決』成文堂、172-192頁

プロ・ファミリアについての日本語のWebリンク。

ドイツで人材コンサルタント - 楽天ブログ(Blog)

ドイツでの妊娠中絶──法制度

2009年07月15日

仲裁ADR法学会サイトリニューアル

仲裁ADR法学会 ‎(Japan Association of the Law of Arbitration and Alternative Dispute Resolution)‎

お疲れさまです。

勉強カフェ

千駄ヶ谷に大人の「勉強カフェ」-勉強仲間見つける場、人気に - シブヤ経済新聞

小沢健二の最近の活動についてのブログ記事

小沢健二のドラッカー批判 今日、考えたこと/ウェブリブログ

蛇足の、「価値教育の成功例」という話がおもしろかった。

小澤昔ばなし研究所

川喜田二郎さん死去

川喜田二郎さんが死去 KJ法を創始、文化人類学 - 47NEWS(よんななニュース)

2009年07月16日

仙台弁護士会ADRセンターの状況

徒然法律ブログ | 最近のADR事情

仙台弁護士会紛争解決センターのセンター長によるコラムである。

弁護士会紛争解決センターのうち、申立件数100件以上のセンターは、愛知、二弁、東弁、仙台である。(2007年度の統計)仲裁統計年報(日弁連)
岡山が100に少し足りない位。

小松亀一弁護士のコラムのような意見もある。

アメリカのADRは正に紛争解決ビジネスという感じですが、日本のADRは、紛争解決のための廉価・迅速ないわば奉仕的なサービス機関の設置を目指しているようで、これが本当に弁護士需要喚起に繋がるのか根本的疑問を持っています。

2009年07月17日

弁護士マンガ

麻生みこと(2008)『そこをなんとか 1 』(白泉社)
麻生みこと(2008)『そこをなんとか 2 』(白泉社)

『そこをなんとか 1 』@楽天ブックス
『そこをなんとか 2 』@楽天ブックス

2009年07月18日

第19回第二東京弁護士会仲裁センター夏季勉強会に参加

去年は傍聴していただけだったが、今年は前で話をさせていただいた。

タイトルは、「ADR機関活性化に向けて ~民間紛争解決機関の機能と課題~」。

話した内容は、司法調停が充実している社会的環境の中で、民間調停をいかに位置づけることが可能かというものだった。

士業団体のADRは、あっせん人・調停人の自己満足だとかかなり厳しい状況認識を話した上で、しかし、具体的な事例レベルで見ると、民間調停ならではの価値を生み出しているものがあるという話をした。

同業者に対して、本当かどうかが怪しい「やすい、うまい」と漠然とした話をしても信用されない。

しかし、例えば、不倫事件の不倫の側からの申立なら、家裁で受けるわけにも行かないが、民間調停なら受けることもできるといった話を知っているかどうかが大事だとおもう。しかもその申立人が例えば妊娠していたら、1ヶ月に1回の手続では負担が大きくなりすぎる。こういうものをしっかり受けとめられる場があると知っていれば、会務といった義務感などではなく、むしろ代理人としてのプロの責任感で事件を持ち込むようになるだろう。

こういうレベルで、事例を約30個列挙した資料を作って話をした。

もっとこうした具体的なストーリーの共有をもっと進めることが大切なのではないか。
認知度を漠然と上げようといった話よりも、一つ一つの事件への取り組みを丁寧に行い、当事者や代理人の信頼の獲得に向けて努力を重ね、そこからの教訓を抽出して、ADR運動につなげることが大切ではないかという趣旨で話をしたつもり。

論文に仕立てて、どこかに投稿せねば。

全体の詳しい進行は、芝さんのサイトを参照

ところで、弁護士会の講堂の半分を仕切って、大きなロの字状に机を配置してある。
座席も組織単位での指定で、とても話しづらい。
言ってみれば、ファシリテーションという概念などと真逆の会議スタイルである。
とはいえ、こういう課題はあるにしても、他士業も呼ぶという姿勢自身はまったく正しいし、実務家として、具体的な現実に対する真剣さにおいては、弁護士独特の迫力があり、勉強にもなったし刺激も受けた。
そのうえ、懇親会の食事まで招待していただけてありがたい。ごちそうさまでした。

懇親会で、ある方に、「ADRのことをしていて楽しいですか?」と真顔で聞かれた。
楽しいですよ、はい。

2009年07月19日

二弁夏季勉強会に参加して (続き)

各弁護士会の活動の紹介は興味深い話が多かった。

わたしが興味深く思ったのは、以下のあたり。

・大阪弁護士会の総合紛争解決センターの話が徐々に分かってきた。
 利用者にとって、費用がかなり安い。
 あっせん人3人体制で1人が弁護士という方式。このあたりが今後どう評価されるかがポイントになってきそう。
・岡山弁護士会の行政仲裁センターについて、なぜオンブズマンにしなかったのか、中立性の問題はどうなっているのか、などという質問あり。
・横浜弁護士会、京都弁護士会は、認証取得後件数増加中。
・愛知県弁護士会は、ADR調査室を発足。申立支援などを弁護士が行うが、その活動に手当が出されるようになった。
・東京の弁護士会医療ADRは利用され始めているが、病院との協力体制などが作れていない。
・東京弁護士会では、現在100件強だが、300件、500件にできないかと考えて、様々な取り組みを実施中。事例を匿名化した上で公表しやすくするための規則改正にも着手。
・仙台弁護士会が準備している今年の連絡協議会では、「2.5人称の視点」というキーワードで、弁護士あっせん人の役割を考える予定という。

2009年07月20日

80年代の富士通・IBM秘密交渉

伊集院丈(2007)『雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉』(日本経済新聞)

少し前に買っておいた本だったが、新幹線の中で読んだ。
米国では、ビジネス調停がさかんで、IT分野の大企業間紛争はその典型と言われている。

この本は、富士通の専務までやった鳴戸道郎氏が、いちおう小説仕立てにして、富士通とIBMの内幕を紹介している。

1982年頃の汎用機ビジネス・互換ビジネスそのものが扱われている。
わたしには歴史的な話ではあるが、富士通とIBMという日米の大企業それぞれの体質の生々しさが良く現れている。
途中で、富士通の顧問弁護士に相談したら、50億円くらい払ってゆるしてもらったらという助言を受けて、「まったく頼りにならない。事件の重大さがわかっていない」と切り捨てているところがある。(P53)

「あなたたちの言っていることはめちゃくちゃだ。富士通のソフト開発で不都合があったとする。それが、どうしてこんな和解契約案に発展するんだ。リンゴを一個万引きしたら、奴隷にされて死ぬまで陵辱され続けるのか。世の中には、衡平という言葉があるじゃないか。」(P141-142)
という富士通側である主人公が、IBMに対して叫ぶ場面がある。
この作品のクライマックスでもあり、同書の基本的な主張でもあるのだが、昔の富士通の行儀の悪さとか、IBMの肉食人種まるだしの攻撃的な姿勢などが凝縮されて現れている。

途中で体調を崩したりと、文字どおり身を削った命がけの交渉者だが、交渉を教育する必要性について、意義を認めて書いている。

続編は、昨年出版されている。ご本人はつい先日亡くなったらしい。

伊集院丈(2008)『雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟』(日本経済新聞)

IBM-富士通紛争の当事者が四半世紀ぶりに沈黙を破り、秘密契約締結に至る厳しい交渉経緯を出版:ITpro

経済産業省:スピンオフ・ベンチャー推進フォーラム/鳴戸道郎氏紹介

訃報:鳴戸道郎さん74歳=元富士通副会長 - 毎日jp(毎日新聞)2009年7月16日

「豊かさ」「ゆとり」「やさしさ」を排し、「うれしい」を求める――鳴戸道郎さん(富士通顧問、トヨタIT開発センター代表取締役会長) | BCNランキング

かなーり、昭和な価値観の持ち主だということがわかる。

2009年07月21日

調停技法勉強会・準備会のお知らせ

8月10日17:00~ (場所)弁護士会館1703 です。
みなさまの参加をお待ちしています。

(社)仲裁人協会:調停技法勉強会・準備会

2009年07月22日

影響力の武器 実践編

N.J.ゴールドスタイン、S.J.マーティン、R.B.チャルディーニ (著)、安藤清志 監訳、高橋紹子 訳(2009)『影響力の武器 実践編―「イエス!」を引き出す50の秘訣』(誠信書房)

『影響力の武器』は、交渉本の古典のひとつである。
6つの「原理」である、返報性、権威、一貫性、希少性、行為、社会的証明に絞って、社会心理学で証明された科学的成果だけを紹介しているところに特徴がある。

この続編では、より具体的な局面を50列挙して、「テクニック」としての紹介になっている。
交渉テクニック使用における倫理性の問題も再三取りあげているのは、それだけ「使える」からだろう。

プロ調停人の声として、以下のコメントが紹介されている。

説得の心理を読む前は、冒頭に双方が相手側にも聞こえるように金銭的な要求を述べることを認めていました。しかし、一貫性の原理のことを知ってからは、個別の面談に入るまで金銭面の要求や提示を控えるように双方に要請することにしました。大勢の前での公のコミットメントが譲歩の努力を妨げることに気づいたおかげで、私の和解達成率は劇的に上がりました。冒頭の要求を聞いていた人が多いほど、その立場から当事者を引き離すのは難しいことにすぐ気づいたのです。(pp.246-247)

別席支持者が喜びそうなコメントである。
わたしは、これを読んだところで、同席手続を基本にすべきという立場に変わりないが(これも「一貫性」かな・・)、金額面の提示を出させるのは慎重にしたほうがよいという考え方はその通りだと思う。
むしろ調停人が金額提示の前提条件の問題を丁寧に扱うことで、当事者が「一貫性」を保ちつつ、提示を変えやすくする方向で手伝うということもあるだろう。

・・などと、考えながら読んでいた。

ロバート・B・チャルディーニ (著)、社会行動研究会 (訳)(2007)『影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)

2009年07月23日

国交省による賃貸住宅向け行政型ADR

時事ドットコム:紛争処理へ公的機関=賃貸住宅のトラブル仲裁-国交省検討


紛争処理へ公的機関=賃貸住宅のトラブル仲裁-国交省検討

 退去時の原状回復や敷金返還など、賃貸住宅をめぐるトラブルが後を絶たないことを受け、国土交通省は7日までに紛争を処理する公的機関の設置の検討を始めた。専門家が仲裁や調停に当たり、迅速な問題解決につなげるのが狙いだ。
 同省は社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)専門部会の議論も踏まえ、年内にも取り扱う事案の対象など詳細を決定する。(2009/07/07-17:38)


2009年07月24日

National Arbitration Forumが消費者仲裁から手を引く

かなり大きなニュースになっているようだ。

Top Arbitration Firms Exit Business : NPR

CL&P Blog: NAF Exits Consumer Arbitrations

NAF Announcement — Out of Consumer Arbitration

2009年07月25日

山形大の医療ADR

河北新報 東北のニュース/山形モデル構築へ連携 山形大、医療ADR研究会設立

中西淑美先生が講演。

2009年07月26日

法律時報の家事事件特集

法律時報2009年3月 特集:家事事件の諸問題

夏目一人さん対夏目房之介さん

<夏目漱石>財団設立で親族が対立 HPは内容削除 - Infoseek ニュース

2009年07月27日

一澤帆布のお家騒動

高校時代に一澤帆布のリュックを使っていたこともあり、この事件には関心を持ってみていたつもりだったが、三男側は最高裁まで行って負けて、その後、夫人が提訴して逆転勝訴しているという流れだったとは知らなかった。

骨肉の争いが形勢逆転、「筆跡」巡り割れた最高裁判決:日経ビジネスオンライン
一澤帆布の逆転裁判/流れ変えた「世間」追認した最高裁 | AERA-net.jp
一澤帆布工業 - Wikipedia
2008-11-30 - 馬上行動 山田冬樹の部屋

【取材日記】一澤信三郎帆布・一澤信三郎さん - 経営者会報 社長ブログ
おのぞみドットコム - 真剣な会話 - [一澤帆布]店主 一澤信太郎さん

いろいろ考えさせられる事件である。

2009年07月28日

そこをなんとか

先日リンクだけ張っておいた弁護士マンガの「そこをなんとか」だが、おもしろい。

キャバクラでバイトしてロースクールの学費を工面して司法試験に受かった主人公のドタバタで進むストーリー。旧司法試験合格者の先輩にバカにされつつ話は進む。
一話完結で、きれいにまとめるが、作者が「見た目以上に手間がかかっている」というだけあって、丁寧に作られている。
取材もしているし、監修も入っている。

法律相談の場面で、相談者のおばちゃんが延々とよしなしごとを話しつづけたあげく、「息子を離婚させられませんか?」と質問するとか、きっと、経験者の話を盛り込んだに違いないという細かい描き込みが多い。

1巻が出た後、「本当の悪人が出てこない」という指摘を受けたという。(2巻に書いてあった作者のコメントに書いてあった。)
そのへんは、この作品の良さだと思うのだけれど、もの足りないと思う人もいるのかもしれない。

1巻には、離婚調停の話も出てくる。

2009年07月29日

佐賀県庁・交渉力養成講座

7/29 9:00-17:00の7時間の研修をさせていただいた。
参加者42人。

佐賀県は、人材育成に力を入れていて、かなり意欲的な活動をされている。
ここを見ていただければ、かなり普通の自治体と違うところがお分かりかとおもう。

研修プログラムが充実した組織で講師をするのも緊張するところがあるが、ホワイトボードなどもたくさんあって、やりやすかった。

交渉のデモをやったり、傾聴ワークをやったりと、6月の交渉トレーニングの反省を反映させたところはよかったとおもう。
県庁向けのプログラムとしてアレンジしたのだけれど、最後のロールプレイなどは、設定が複雑すぎてわかりにくかったなど、やっぱり課題は出て来た。

管理職の人が多かったのだけれど、研修ずれして、破壊的な活動をする人などひとりもおらず、前向きに取り組んでいただけてよかった。

2009年07月30日

16人おじさん漂流記

須川邦彦(2003)『無人島に生きる十六人』 (新潮文庫)

初出は、昭和16年。
明治時代の実話を元に、聞き書きの構成を取っている本。

とにかく、おもしろい。
ロビンソン漂流記とも共通したところがある。

帆船が座礁し、無人島に不時着する。
乗組員は16人。

飄々とした書きぶりなのだが、井戸を何度か掘っても塩水しか出てこなかったり、全員下痢になったり。
もちろん、いつ救出されるかわからない。

こういう場合に必要なのは、知恵(主として技術)、勤勉さ、希望なんだろうなぁとつくづく思った。

さりげなく出てくるのだが、最初に夜の見張り役をさせるのは、体力のある若者ではなくて、ホームシックになりにくい年配者にさせるとか、いかに希望を保ち続けるかにリーダーが腐心している。

船長のせりふ:

「いままでに、無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって、死んでいったりしたのは、たいがい、じぶんはもう、生まれ故郷には帰れない、と絶望してしまったのが、原因であった。私は、このことを心配している。いまこの島にいる人たちは、それこそ、一つぶよりの、ほんとうの海の勇士であるけれども、ひょっとして、一人でも、気がよわくなってはこまる。一人一人が、ばらばらの気持ちでもいけない。きょうからは、げんかくな規律のもとに、十六人が、一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、本当に男らしく、毎日毎日をはずかしくなく、くらしていかなければならない。そして、りっぱな塾か、道場にいるような気持ちで、生活しなければならない。この島にいる間も、私は、青年たちを、しっかりとみちびいていきたいと思う。」(P106)

2009年07月31日

企業内紛争解決

企業のためのコンフリクトマネジメント(PDF)
リンク元:(財)大分県産業創造機構 機関誌「創造おおいた」
九大出身の福嶋崇さん。


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