初出は、昭和16年。
明治時代の実話を元に、聞き書きの構成を取っている本。
とにかく、おもしろい。
ロビンソン漂流記とも共通したところがある。
帆船が座礁し、無人島に不時着する。
乗組員は16人。
飄々とした書きぶりなのだが、井戸を何度か掘っても塩水しか出てこなかったり、全員下痢になったり。
もちろん、いつ救出されるかわからない。
こういう場合に必要なのは、知恵(主として技術)、勤勉さ、希望なんだろうなぁとつくづく思った。
さりげなく出てくるのだが、最初に夜の見張り役をさせるのは、体力のある若者ではなくて、ホームシックになりにくい年配者にさせるとか、いかに希望を保ち続けるかにリーダーが腐心している。
船長のせりふ:
「いままでに、無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって、死んでいったりしたのは、たいがい、じぶんはもう、生まれ故郷には帰れない、と絶望してしまったのが、原因であった。私は、このことを心配している。いまこの島にいる人たちは、それこそ、一つぶよりの、ほんとうの海の勇士であるけれども、ひょっとして、一人でも、気がよわくなってはこまる。一人一人が、ばらばらの気持ちでもいけない。きょうからは、げんかくな規律のもとに、十六人が、一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、本当に男らしく、毎日毎日をはずかしくなく、くらしていかなければならない。そして、りっぱな塾か、道場にいるような気持ちで、生活しなければならない。この島にいる間も、私は、青年たちを、しっかりとみちびいていきたいと思う。」(P106)