伊集院丈(2007)『雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉』(日本経済新聞)
少し前に買っておいた本だったが、新幹線の中で読んだ。
米国では、ビジネス調停がさかんで、IT分野の大企業間紛争はその典型と言われている。
この本は、富士通の専務までやった鳴戸道郎氏が、いちおう小説仕立てにして、富士通とIBMの内幕を紹介している。
1982年頃の汎用機ビジネス・互換ビジネスそのものが扱われている。
わたしには歴史的な話ではあるが、富士通とIBMという日米の大企業それぞれの体質の生々しさが良く現れている。
途中で、富士通の顧問弁護士に相談したら、50億円くらい払ってゆるしてもらったらという助言を受けて、「まったく頼りにならない。事件の重大さがわかっていない」と切り捨てているところがある。(P53)
「あなたたちの言っていることはめちゃくちゃだ。富士通のソフト開発で不都合があったとする。それが、どうしてこんな和解契約案に発展するんだ。リンゴを一個万引きしたら、奴隷にされて死ぬまで陵辱され続けるのか。世の中には、衡平という言葉があるじゃないか。」(P141-142)
という富士通側である主人公が、IBMに対して叫ぶ場面がある。
この作品のクライマックスでもあり、同書の基本的な主張でもあるのだが、昔の富士通の行儀の悪さとか、IBMの肉食人種まるだしの攻撃的な姿勢などが凝縮されて現れている。
途中で体調を崩したりと、文字どおり身を削った命がけの交渉者だが、交渉を教育する必要性について、意義を認めて書いている。
続編は、昨年出版されている。ご本人はつい先日亡くなったらしい。
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伊集院丈(2008)『雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟』(日本経済新聞)
IBM-富士通紛争の当事者が四半世紀ぶりに沈黙を破り、秘密契約締結に至る厳しい交渉経緯を出版:ITpro
経済産業省:スピンオフ・ベンチャー推進フォーラム/鳴戸道郎氏紹介
訃報:鳴戸道郎さん74歳=元富士通副会長 - 毎日jp(毎日新聞)2009年7月16日
「豊かさ」「ゆとり」「やさしさ」を排し、「うれしい」を求める――鳴戸道郎さん(富士通顧問、トヨタIT開発センター代表取締役会長) | BCNランキング
かなーり、昭和な価値観の持ち主だということがわかる。