井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(2015年・毎日新聞出版)
井上達夫『リベラル・・』を読んだ。
毎日新聞の記者を相手に話した内容を本にまとめたもので、非常に読みやすい。
読みやすいだけでなく、突っ込んだ話もいろいろ書いてあって面白い。
むしろ保守的な読者が読めば、この本を面白く感じられるのではないか。
9条関係の議論に注目が集まるだろうけれど、慰安婦問題での「アジア女性基金」でなされたことはもっと肯定的に受けとめられるべきだといった主張などもある。ドイツの「反省」が意外と限定的だという指摘もしている。
日本は結局のところ、非白人、非クリスチャンの国家なのに、西洋主要国のグループに「入れてもらって」なんとかかんとか100年以上やってきている。そのときに頼りになるのは、西洋主要国の「正義」の感覚であり、考え方であって、ここをまじめに受けとめることこそ、日本がこれからも世界の中で、なんとかかんとかやっていくために必要な拠り所になるはずだ。その西洋的な正義の感覚、考え方こそが「リベラリズム」である。しかしながら、日本で党派的に「リベラル」とされている人々の思考停止ぶりは目を覆うばかりであり、そこを否定することなしに、日本でリベラリズムを位置づけることはできないだろう……といったところが、本書の基本的な立ち位置だとおもう。
学者だって使い道があるよと。
六本佳平先生の授業をきっかけにして、現実の弁護士が魅力的でないと失望したといった話や、ロールズがリベラリズムが及ぶ射程を狭く考えるようになってしまったことへの失望の話題も興味深かった。
ロールズの輸入代理店みたいな仕事はしたくなかったという話は、全くの本音だと思う。
この本についての、イスラム学の池内恵さんによる文章もおもしろい。