矢吹紀人(2009)『預けたお金を返してください!―ドキュメント・銀行の預貯金過誤払い責任を問う』(あけび書房)
通帳を盗まれ、預金を引き出された被害者に、銀行は一切補償しない・・という実務がずっと行われていた。
そこに目をつけた窃盗団が組織的な犯罪を拡げる。
銀行は、事態を認識しながらも、改善できない(しない)。
そして、持ち前の冷酷さで、被害者たちにつらく当たる。
薬害被害を扱っていた弁護士自身が同様の被害に遭い、銀行を相手に、被害者集団を組織し、補償を求める裁判を起こしていくという話。
判例では、銀行側絶対有利という状況である。
事態が社会問題化していることを運動として拡げていって、裁判官の判断に影響を与えようとする。
結果として、徐々に勝訴判決を勝ち取っていく。
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このような闘い方は、残念ながら、ADRではできないものだとおもう。
被害者が勝てる状況ができてからなら、ADRに持ち込んでも意味があるだろうが、判例で銀行側絶対有利という状況でADRに持ち込んでも、なかなか救済にはつながらなかっただろうとおもう。
ADRを学習するというのはどういうことだろうと考えている。
ひとつには、このようなADRでは解決できない問題がどのように切り開かれてきたかを知るということも必要なのではないか。
いままでは必ずしもそのような試みは広がっていないが。
裁判官気取りで当事者から遠ざかっていく中立性ではなく、両方の当事者に近づいていくスタンスが大事であるが故に、その限界を考えておくことは必要ではないかとおもう。