網野善彦(2013)『宮本常一『忘れられた日本人』を読む』 (岩波現代文庫)
こちらは講演録。
網野善彦は『忘れられた日本人』を短大のゼミで10年間使っていたらしい。
東日本は家父長制的な上下の結びつき、西日本はフラットな横の関係を結び合うのが特徴(P117)。
学問の本来のあり方だと思いますが、宮本さんご自身、決して完成した存在ではないことをよく自覚しておられました。実際、新しいことを知ると、どしどし意見を変えていかれています。ですから、最晩年の講義をまとめた『日本文化の形成』(前掲)を読みますと、宮本さんが最近の新しい学問の進展に、ほんとうに興奮しておられることがよくわかります。例えば、国立民族学博物館のシンポジウムに出席されて、稲作の起源についてのいろいろな議論を聞いて、学問が新しくなっていることに、宮本さんは若者のように興奮しておられたということを書いている方がいますが、学問をする人は、まさしくそうでなくてはならないと思います。常に新鮮な疑問を持ちつづけ新しい分野を開拓する。誤りははっきり認めて正しい見方に従う、学問とはそういうものだと私は考えます。
ですから、宮本さんでさえ超えられなかった壁を乗り越え、これから新しい世界を開くことは十分にできますし、後進はそれをやらなくてはならないと思います。しかし宮本さんの仕事は、まさしくそういう意欲に私どもを駆り立ててくれる内容をもった仕事で、日本の学者のなかでは、数少ないすぐれた研究者だということを最後に強調しておきたいと思います。 P228-229