松本秀文:「現実はひとつではない」と現実の中で呟く20世紀を代表する詩人エズラ・パウンドは、「Make it new(刷新せよ)」と語っていた。彼にとって、詩とは言葉によって現実を突き破る方法であった。私もそれに同意する。詩を書くということは、私たちが互いに「現実」と呼び合うことで確保される安全な場所から勇気を出して飛び出すことである。
本来、言葉と現実との関係性は複雑で多層的なものである。それが「客観的現実」によって単純化されることは、私たちの「生」が単純化されることを意味する。私はそれを否定しないが、肯定もしない。詩は、個人それぞれの「主観的現実」の多様性を徹底的に保証し、擁護するものである。2011年5月14日(土)西日本新聞朝刊11面