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棚瀬孝雄先生のオーラルヒストリー

日本法社会学会の大会のために東大・本郷に来ている。

棚瀬孝雄先生のオーラルヒストリーを聞く。

約10年単位くらいで、自らの研究史をふりかえり、「どんなことを考えてとりくんでいたか」を話すというもので、極めて率直な語り口だった。
学部中に司法試験に受かって(1966年)、卒業時には川島武宜の助手に採用される。ハーバードの社会学で博士をとり、京大で助教授、教授になられる。華麗な経歴で、膨大な業績である。
しかし、主観的には、悶々とされていた時期も長かったそうで、聞いてみなければわからないなとおもう。

わたしにとって印象深かった言葉をいくつか。

修業時代の10年間の集大成として1977年に「紛争と役割過程」(法学論叢)を書き上げるまでは、「暗いトンネルをとぼとぼと歩いている感じ」。

棚瀬先生が、法社会学を志した当初、自分は確かに社会によって作られているが、社会を作りかえることに自分はどう関われるかという関心-左翼的な関心-があった。

1980年代に個人(近代的個人)のゆらぎというパラダイム転換を学び、自分の研究を見直し。若い大学院生から学んだ。研究の資産は10年は持つが・・

『本人訴訟の審理構造』は本当に力を入れた仕事。アメリカから学んだものは、自分の手で自分の紛争を解決するという当事者主義。これがドイツとフランスから学んだ職権主義の「埃だらけ」の日本の訴訟を見直す契機になる。

法社会学のレゾンデートルとしての近代化。近代化は未完のプロジェクト。近代は、普遍的法と私人の合意以外による決定を排除。川島武宜が攻撃した家父長的な権威主義はその例。
法社会学の研究には、観察と洞察が不可欠。

弁護士をやってみて分かったこと:
当事者から見て「高い」と思われているが、日本の弁護士費用は安すぎる。棚ぼたの仕事は少なく、実際にはほとんど手作り。その結果、弁護士が手抜きする。
弁護士はうそをつく。当事者は弁護士に共謀的な態度を求める(うそを求める)。断ると解任される。裁判所は弁護士のうそに寛大。

フロアから、「なぜそんなに元気なんですか」と質問。

コメント (2)

入江様。棚瀬先生のオーラルヒストリーの記事を興味深く読みました。棚瀬退官企画の時よりもさらに踏み込んだ話を聞くことができたようで、同じ時間に開かれていた法社会学会理事会なんかに出ているよりよほど面白そうでしたね。「棚瀬弁護士」になってからの棚瀬先生の弁護士観の見方の変化は衝撃的なほどです。棚瀬先生は楽しくて仕方がないから元気なんですよね(同年代の他の先生がよぼよぼになっているので、その姿は対照的です)。5月6日(金)の理事会後、本郷の交差点で棚瀬先生にお会いしたのですが、本当に楽しそうでした。

ヱ:

こちらのコメントもありがとうございます。
あと、棚瀬先生の、言葉の端々に出る奥さんを敬愛しておられるすがたもすばらしいとおもいます。

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2011年05月07日 07:45に投稿されたエントリーのページです。

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