河合隼雄(2009)『カウンセリングの実際―“心理療法”コレクション〈2〉』 (岩波現代文庫)
比較的若い頃の著作だと思うが、具体的な臨床の場面に即した話が出てくる。
特に興味深かった点として、日本人が「ひたすら聴く」というと、おのれを空しくするというところに力が入りすぎるという話があった。カウンセラー自身の感情を受容せずに、クライアントだけを受容するなどということはありえないとまで言い切っている。
また、冒頭近くのエピソードで、助言して解決したのですが、これではカウンセリングではありませんねという質問を受けて、「それがカウンセリングかどうかということより、役に立ったかどうかを考えなさい」と言っている。この点も面白い指摘だった。
五章では、「ひとつの事例」として、カウンセリングの基本から一見外れた活動もいろいろ行いながら格闘する様子を紹介している。この事例では、クライアント一人というより、クライアントの家族全体を相手に、時に母親になったり父親になったりしながら、やってはいけないはずの両方の家庭への行き来を含みながら、取り組んでいる。