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内田樹『先生はえらい』

内田樹[2005]『先生はえらい』 (ちくまプリマー新書)

教育論なのだが、主にコミュニケーション論だった。

「資格をとる」ために、フレーズを覚えて吐き出すような暗記勉強をするということから、いかに遠いところに学びはあるかということを、クドクドと書いている。
資格がない「若者」が資格を求めてうつろな疾走をすることに対して、著者は冷ややかである。
(わたしは、この冷ややかさに違和感がある。)

言い換えれば、学ぶものが自分自身学びたい本質的な問いを立てて、その問いを投影できる人を見つけることができたら、それが最高の先生であり、なにか有用な「情報」や答えを与えてくれるのが先生だと考えるから間違いなのだということを言っている。

引用文を読んでいただいたらおわかりになるとおもうが、中高生を読者として想定してある新書向けに書かれたもので、とても読みやすい。
こういう入門書こそ一生懸命書くというスタンスは見習うべきだと思った。

 学ぶというのは有用な技術や知識を教えてもらうことではありません。  ・・  私は上で、プロの人なら言うことは決まっていると書きました。  それは、「技術に完成はない」と「完璧を逸する仕方において創造性はある」です。  この二つが「学ぶ」ということの核心にある事実です。  P31-32


 今聴いたばかりの話を「ずっと前から聴きたいと思っていた話」だと思うのは、よくあることなんです。
 「一目惚れ」がそうでしょう?
 「一目惚れ」というのは、「今あったばかりの人」のことを「ずっと前から合いたいと思っていた人」だと信じ込むことですよね。この人とは「いつか出会うことを運命づけられていた」というような不思議な既視感が気分のよい対話でも経験されます。
 気分の良い対話では、話す方は「言うつもりのなかったこと」を話して、「ほんとうに言いたいことを言った」という達成感を覚えます。聴く方は「聴くつもりのなかった話」を聴いて、「前から聴きたかったことを聴いた」という満足感を覚えます。言い換えると、当事者のそれぞれが、そんな欲望を自分が持っていることを知らなかった欲望に気づかされる、という経験です。
 まさしく、それを経験することが、対話の本質なんです。
 P71

 みなさんは、まだお若いからビジネスというものの経験がないでしょうけれど、この機会に良く覚えておいて下さいね(私は実はむかし友人たちと会社を経営していたことがあるのです。学者になるために引退しちゃいましたけれど)。
 その経験から申し上げますが、ビジネスというのは、良質の商品を、積算根拠の明快な、適正な価格設定で市場に送り出したら必ず「売れる」というものではありません。
 ・・
 交易が継続するためには、この代金でこの商品を購入したことに対する割り切れなさが残る必要があるのです。クライアントをリピーターにするためには、「よい品をどんどん安く」だけではダメなんです。「もう一度あの場所に行き、もう一度交換をしてみたいという消費者の欲望に点火する、価格設定にかかわる「謎」が必須なんです。
P81

 恋人に向かって「キミのことをもっと理解したい」というのは愛の始まりを告げることばですけれど、「あなたって人がよーくわかったわ」というのはたいてい別れのときに言うことばです。
 ごらんの通り、コミュニケーションを駆動しているのは、たしかに「理解し合いたい」という欲望なのです。でも、対話は理解に達すると終わってしまう。だから、「理解し合いたいけれど、理解に達するのはできるだけ先延ばしにしたい」という矛盾した欲望を私たちは抱いているのです。
P102



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2007年08月12日 06:38に投稿されたエントリーのページです。

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