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「なるほど」の対話

河合隼雄・吉本ばなな[2005]『なるほどの対話』(新潮文庫)

吉本ばななと河合隼雄の対談。
長い東海道線の友に、軽めの本をと思って買ったが、予想以上に興味深かった。

途中で河合隼雄が、自分は普通、対談ではあまり話さないで、あいづちばかりうっているのに、ばななさん相手ではよく話していると言っているが、確かにそうだと感じる。
臨床の現場で、吉本ばななの作品を大切にしているクライアントが多くいるからだろうが、河合先生自身が吉本ばななをとても尊敬している感じが伝わってくる。

ふたりとも、日本のしがらみ社会の中で格闘して、成功しているので、名前にある種の先入観が着いてしまっている嫌いがあって、読まなくても、ああ河合隼雄ね、吉本ばななね、とやりすごせるようなところがあるが、今回この対談を読んで、もう少しお二人の本をちゃんと読んでみようかという気になってきた。

ぼく自身は、非常に、学校化された価値観の中で育ってきてしまっているから、「学校が自分をぐちゃぐちゃにした」とまで言う吉本ばななを本当のところではよくわからないのだけれど、ぐちゃぐちゃにされてもまだ生きている学校化以前の自分というものがあるということはどういうことなのか、考えるべきであるような気がしている。

以下、印象的なところの抜書き。

吉本 (笑)「だめよ、あなた学校行かなきゃ」。

河合 そうそう、「行かなきゃだめよ!」とか、「無理してでも引っ張っていった方がいいって聞いた」とか。

(中略)

吉本 ああいう人たちと戦ったことはありますか?

河合 そりゃあ、もう。ただ、ヘタに戦ったら損やからね。戦って叩きのめしてしまったらそれはええけど、なかなかそうはいかないから。変なふうに戦うと損だから、上手に。
P49


吉本 死ぬ間際に自分の人生を振り返ってみて、子ども時代と歳をとってからのことを「ああ、あの頃はゆめみたいだったなあ」と思いたいんです。
P65


吉本 その変わっていない日本的しがらみというのは何かの役に立っているんでしょうか。日本の何を支えているんですか!

河合 やっぱり能力のない人を支えている強力な武器でしょうね。

吉本 なるほど!

河合 日本は犯罪が少ないでしょ。安全ですよね。それも日本のしがらみのおかげだと思いますよ。
P93


吉本 いじめられかけても、笑いでごまかしたり、うまく逃げたりして、なんとかしのいで。だから学校には、いい思い出はほとんどないんです。「学校は自分をぐちゃぐちゃにした」という印象が強くあります。学校に行かなかった自分を見てみたいなあ。素晴しくもないだろうけど、いまみたいではなかっただろうなあ。学校、つらかったですねえ……。だから、学校みたいなものが、もう一度、訪れると思っただけで、ドキドキ、びくびくしちゃいます。
P105


河合 いま現代人は、みんな「社会」病にかかっているんです。なにも、社会の役になんて立たんでもええわけですよ。もっと傑作なのは、ただ外に出て働いているだけなのに社会に貢献していると思っている人がいる。貢献なんてしてないですよね、金儲けに行ってるだけでしょ。「そんなん、別に」とぼくは思っています。社会へ出ていくとか、だいたい社会というものが、あるのか、ないのか。それから、なんで貢献せないかんのか、とか。全部、不明でしょ、ほんとのとこは。
P111


河合 とにかく日本には、おせっかいが多い。それは、「創造する」作業にとって、ものすごくマイナスなんですよ。創造する人は、その世界にいないとダメなのに、そこへガヤガヤと手や足を突っ込んでくるわけやからね。そういったものから自分を守るのは、たいへんだと思います。それでも作家の人たちは、なんとか頑張っておられるけれど。日本はクリエイティビティを表に出すのが、とても難しい社会です。それは作家だけではなくて、学者でもそうです。
P119


吉本 作家にとって「どう生きていくのか」ということと「どう書いていくのか」ということが、ものすごく一致してきちゃう時代だなあ、といま思っています。

(中略)

若い人たちの悩みを見ると。これまで書いてきたようなものを書いても、もうだめな時代なのかなあと思います。悩みというか、そのつらさが、なんとなく伝わってくるんです。「つらくてしょうがない」という感じなんですよ。「そんなに言うほどでもないんじゃないの」とも思うのですが、やっぱり、希望が持ちにくくて、つらくてしょうがないんだろうなあ、と思うのです。だから、浮き世離れしたところで、チョロチョロっと夢みたいなことを書いても、だめなんだなあ、と。そういう感じとしか言えない。
PP129-130


吉本 とにかく、きれいな感じのマンションみたいのに住んで、そこで小綺麗に小綺麗にすればなんとかなるという発想があって、で、そこの部屋からは汚くなったものは全部出しちゃうんです。たとえば、赤ちゃんでも、きれいに生まれてこなかったらポイッて捨てちゃったり、お年寄りでも寝たきりになっちゃったら死ねばいいと思ったり。
(中略)
自分の親が死んでいこうとしているのに、マンションで放っぽっとくなんてことは、人類始まって以来のことなんじゃないでしょうか。
P170


コメント (2)

鎌田裕子:

この本、私も読みましたよ!ばななさんの体験の吐露が印象に残りました。
河合先生はいろんな方と対談されていますが、個人的には、村上春樹との対談なども良かったなーと思っています。ちょっと古いですが、「ねじまき鳥クロニクル」なんかが出てた頃ですね・・・(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』)

ヱ:

鎌田さん、かきこみありがとうございます。

村上春樹と河合隼雄の対談も私も読みました。デタッチメントとコミットメントという言葉が出ていましたが、ちょうどこの頃から村上春樹の作風が変わってきたころでしたよね。

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2006年09月29日 12:43に投稿されたエントリーのページです。

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