中村努 他 認定NPO法人ワンデーポート編『ギャンブル依存との向き合い方』(明石書店・2012年)
ギャンブル依存当事者で、認定NPO法人ワンデーポートを立ち上げた中村努さん、精神保健福祉士で相談室を開業されている高澤和彦さん、司法書士の稲村厚さんの3人で作られた本。
アルコール依存症向けの当事者支援スキームを援用しながら実践していく中で、特に発達障碍のある方に対して、従来のアプローチが機能していないことに気づき、対応を修正していったという活動の学びの記録という風にも読めるもの。
当事者の手記も、中村努さんの章とは別に2つが掲載されている。
問題の所在はかなりはっきりと明示されているし、解決への手がかりも示されているが、ここで見つけられたものが展開され、世の中における知恵として定着するまでの道のりを考えると、気が遠くなりそうにも思える。
しかし、ここに示された希望を大切にしたいなと、おもった。
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最初は、「発達障害であるかないか」の判断にとらわれていましたが、少しずつ「発達特性を考慮に入れた支援の個別化」という考え方ができるようになったと思います。そして現時点では、発達障害の見方や支援の仕方を参考にしながら、発達障害か依存症かということにはあまりこだわらず、「生活課題とそれに対応する支援に想像力を働かせる」という形に相談のやり方は変化してきました。(中略)
私たちの実践はまだまだ小さな実践です。手間もかかり、多くの方々に理解してもらうには、時間も、さらなる工夫も必要だと思います。ただ、マニュアルとシステム頼りの支援は、確実に限界に来ているように思うのです。たとえば、精神保健福祉の分野では、自殺対策のひとつの柱として「うつ病」対策が行われてきましたが、こういう症状がいくつあれば「うつ病」というような、マニュアルに基づいた診断(操作的診断)によって、「病気」の治療というシステムに乗せるだけでは、残念ながら思ったような効果は上がっていないように感じられます。
ギャンブルの問題も同じなのではないでしょうか。問題がいくつあれば「ギャンブル依存症」というようなマニュアルによって見立て、プログラムに合わせていくシステムでは、人の生活を取り戻すことはできません。「人」をどのように理解し、「生活」にどのように寄り添うかという視点での支援が必要な時代になってきているのではないかと感じています。
PP219-220(高澤和彦)