ケネス・J・ガーゲン、東村和子訳[2004]『あなたへの社会構成主義』(ナカニシヤ出版)
私は学部学生の頃、「科学的な」心理学のトレーニング――実証的方法論、厳密な測定、統計的分析を用いることによって、心の機能に関する真実に接近できるという期待にもとづいた心理学におけるトレーニング――を受けました。・・これはある意味、職業上のトリックです。 ・・・ 私はもはや、このような研究をすることはないでしょう。・・何よりも大事だと思うのは、「真理を確立する」ことを目的としない研究のもつ価値や可能性について、もっと議論していくことです。・・「科学的な」解釈が社会に広まった時、いったい何が起こるのでしょうか。それによって何かを得るのは誰でしょうか。反対に、失うのは誰でしょうか。どうすれば、私たちは共に未来を作り上げたいと願うようになるのでしょうか。 P86-87
こうした立場に立つ本は昨今少なくないのだけれど、
・著者の私の立場からあなたへの語りかけという形式が貫徹していること
・様々な学問分野における研究成果を貪欲に渉猟してきたものであり、記述量が多いこと
という特徴がある。
現代西洋人がひとりで書いた『思想の科学事典』といった趣きの本だ。
メディエーションについてもかなり詳しく読み込んでいるようで、『ハーバード流交渉術』はもちろん、"The Promise of Mediation"なども紹介されている。
メディエーションも含めて「モダニズムの世界観に深くとらわれている」「個人主義的な見方が想定されている」という紹介のされ方ではあるが、思想の最先端の話にもこうして登場している状況は、やはり日本での議論とは大違いだと思える。